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ジン温故知新第7回

903

 皆さん。お元気ですか?今年二回目のジン温故知新第7回です。今回も宜しくお願いします。毎年ほとんどの時計ブランドから多くの新作が発表になっています。ジンでもここ数年、年間で10モデル以上の新作が発表されていますが、その影で様々な理由でその寿命を終えるモデルもあります。ブランドにとって様々な面でこれらの新陳代謝が必要ですが、同じモノを作り続ける事もブランドにとっては大切な事だと思います。世界的に有名なブランドにはその様なモデルがある事を、皆さんも良くご存知だと思います。
 ジンにも〝継続は力なり〟的なモデルがいくつかあります。今回ご紹介する903も変える必要の無いモデルの一つです。

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 このモデルを見た多くの時計好きの皆さんが、最初に思われた印象は同じだと思います。(多分断言できます)「これってB社のそれと同じだね」ですよね?はい。その印象は正解です。903はパイロット、ナビゲーター、コミューターに必要な機能が盛り込まれた精密時計機器です。外周回転ベゼルに刻まれている計算スケールで、速度、航続距離、燃料消費、上昇および下降速度、マイルやキロへの換算ができます。足し算、引き算、掛け算、割り算もお手の物です。ここから先はウラ話になりますが、今から30年以上前にこの計算スケールを備えたダイヤルの使用権を、皆さんが思い浮かべたブランドから買った事で実現したモデルなのです。もちろんこの使用権は今でも有効です。

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 では時計を見ていきたいと思います。ケースサイズは41ミリ、厚さ14ミリ。ステンレススチール製でポリッシュ仕上げと今では珍しいゴールドプレイテッド(金メッキ)の二種類がありました。使用しているムーブメントは当時でもマスターピースの誉れ高いレマニア社製手巻ムーブメント、キャリバー1873(18石)です。当時から年間生産個数の少ないマニア垂涎のムーブメントでした。ケースバックは当然のようにスケルトン仕様でこのムーブメントの動きを楽しむ事が出来ます。

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 日本では1987年ごろから発売を開始したと思います。その当時はそれほど思わなかったのですが、今思うとこれだけでも時計好きには大好物のモデルにも関わらず更に驚きがあったのです。それは24時間表示モデルの存在です。12時間表示の通常の903をよりプロフェッショナル・ユースにするために開発されました。同じレマニア社製手巻きムーブメント、キャリバー1877(18石)を使用しています。12時間表示の時計は時針がダイヤルを1日で2周しますが、24時間表示は1日で1周です。

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 例えば飛行中のパイロットが悪天候に見舞われた場合、暗雲がたちこめる中での飛行はそれが長時間に及べば及ぶほど昼夜の判別が曖昧になってきます。外部との連絡が取れていればその様な事は無いかもしれませんが、もし何かのトラブルで外部との連絡が取れなくなった場合は?その様な時に時計を見ただけで昼夜の判断ができる24時間表示の腕時計を使用する事は有効な手段の一つなのです。インデックスは12時間表示の6時の位置に午前0時を配置しているためダイヤル上部は昼間、下部は夜間とひと目で判断できます。もちろんコックピットのオンボードにも時計があり突然のトラブルに対応できる準備は備わっているとは思いますが、時計は腕に着ける最小の計器。それを着ける人の安心感にもつながっていると思います。(宇宙空間で頼れるのは時計だけ!って映画がありましたね)それとパイロットと聞くと私もそうですが、旅客機のそれをイメージしがちです。それなら時計が無くても大丈夫でしょう?と思います。もちろんジンのユーザーの中には旅客機のパイロットもいますが、自分で操縦するホビーパイロットやオープンコックピットの古い機体からグライダーまで様々な航空機を操縦するパイロットがいます。
 全てのプロフェッショナルに寄り添ったジンならではのモデルと言えます。

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 ベゼルの使用方法にはついてはあえてこちらではご紹介しませんが、(説明出来ない?)無数にプリントされた数字を見ているだけでもワクワクするものです。外周のベゼルは風防と一緒に回転し、グローブを着けていても操作しやすいようにベゼルリングの外側に刻みが入ってます。外周の数字とダイヤルにプリントされた数字を合わせて計算を行います。9時の位置にスモールセコンド、3時の位置に30分積算計、6時の位置に12時間積算計を備えています。これだけの情報を備えたダイヤルだと(特に24時間表示モデルなど)視認性が悪い印象がありますが、他のモデル同様に視認性を損なうような事はありません。これは24時間表示モデルでも同じです。
 手巻の903はそのムーブメントが入手困難になり生産終了になりますが、バルジュー7750自動巻ムーブメントを搭載して販売は継続されました。その後、12時の位置にムーンフェィズと日付を備えた手巻のレマニア1883を搭載した903.H4、1872を搭載した限定モデル903.H2等を発表しています。
 現在ではラ・ジュー・ペレ社の自動巻ムーブメントを搭載してライナップされています。

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現行モデルの903.ST.AUTO(左)
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903.ST.AUTO.B.E(右)

 モデル903ナビゲーションクロノグラフ、いかがでしたでしょうか?現在ほどモデル数が無かったころからジンをご存知の方には、ジンを代表するモデルと言っても良いかもしれません。〝変える必要の無い事は変えない〟これはジンのフィロソフィーの一つです。