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ジン温故知新第9回

EZM1
EZM1

 皆さんこんにちは。いつもジンのメルマガをご愛読頂きありがとうございます。既に今年のジンの新作はご存知かと思います。2019年まではバーゼルモデルと呼んでいましたが、最近は春の新作と呼んでいます。これまでと違って今年はジュネーブとミュンヘンで開催されたリアルでのエキジビションに参加しました。これも普通が戻ってきた証ですね。喜ばしい事です。新作の中で一番の話題はやはりEZM1.1Sである事は間違い無いことだと思います。

EZM1.1S

2022年新作 EZM1.1S

 これはEZMシリーズ発売25周年を記念したモデルです。2017年に発表されたEZM1.1のケースにPVDを施した世界限定500の限定モデルです。

 今回の温故知新は最初に発表されたEZM1をご紹介したいと思います。1994年にローター・シュミット工学士が社長に就任して以来、耐磁性能と対ショック性に特化したモデル244、ケース内部の湿気を除去して精度を安定させたArドライテクノロジーを搭載したモデル203と、それまでジンが培ってきたフィロソフィーを踏襲しながら「ジン特殊時計会社」の名前に相応しいモデルを発表しました。これらはジンのマイルストーンと言えるモデルです。そして現在に繋がるジンのブランドイメージを確立させたシリーズがこのEZMシリーズです。

EZM1
EZM1

 EZMはドイツ語でアインザッツ・ツァイト・メッサーの頭文字で、日本語に直すと出撃用計測機器です。事の起こりは25年前の1997年。実は最初に販売されたEZMシリーズは、ドイツ国境警備特殊戦闘部隊GSG9のダイバーチームに納入されたハイドロシステムを搭載したダイバーモデルEZM2です。このメンバーを伴ってジン社を訪れたのがZUZの隊長の任を受けた人物でした。

 ZUZとは1998年1月ケルンにあるドイツ税関中央局に誕生した税関中央支援グループです。EUの統合にともなって国境検問所が取り払われ、EU内では一つの国の様に行き来が出来ることになりました。その中で兵器、麻薬などの密輸が急増し国際的な密輸組織は武器密輸組織へと拡大していきました。それまでドイツ税関局は特殊部隊と 呼べる組織を持っていませんでした。しかしこの様な現実に立ち向かうために、税関局にはじめて武装特殊部隊の設立が求められたのです。それがZUZです。国際的に活動する犯罪組織に立ち向かえるプロフェッショナルな技量を備えたグループなのです。そのメンバーはGSG9の中から選抜された20名で構成されています。それは特殊部隊内のエリート中のエリートでした。
 このZUZの為に開発されたミッションタイマーがEZM1だったのです。EZM1の開発にはこれまでの時計とは違ったアプローチが必要でした。それはZUZという部隊の任務の特殊性にあります。彼らの活動範囲は陸、海、空にわたり作戦時間は主に夜間に行われます。その作戦行動時間は最大でも15分と短時間です。徹底した視認性と作戦開始のタイミングを計るクロノグラフの機能性と秒と分積算計が最重要でした。

EZM1
EZM1-市販タイプ
6時位置に「3H」のマーク入り

 ではその時計を見ていきましょう。ケースは強靭で軽量なピュアチタンを使用しており、風防はキズに強いサファイアクリスタル製です。プッシュボタンとガード付きのリュウズはグローブをつけての操作性を考慮して設計されています。また、急激な温度変化でケース内部の湿気がケース内部に付着して視認性が損なわれないよう湿気を除去するArドライテクノロジーを導入しています。視認性を最大限に考慮したダイヤルに針とインデックスには、当時使用制限が無かったトリチウム夜光が使われています。ダイヤルに印された「3H」がそれを意味しています。

 使用しているムーブメントはかのレマニア5100です。ZUZの要望に応えるようセンターにはクロノグラフ秒針と60分積算計だけを配置しています。通常のレマニア5100に搭載される永久秒針や12時間積算計を取り払いました。クロノグラフでありながら、スモールダイヤルがひとつもなく、ミッションタイマーにおいて重要とされる時間計測のためのクロノグラフ機能、とりわけ秒と分積算計に特化したスタイルとなっています。スモールダイヤルがないため、時間や分積算計の視認性を低下させることがありません。

EZM1
EZM1-特殊部隊ZUZが装備
6時位置に「ZUZ」のマーク入り

 ベゼルはインデックスが反時計回りに刻印されたカウントダウンベゼルを採用しています。これもZUZからの要望でした。作戦行動の中で一つの行為から次の行為にまで、全てが瞬時のうちに決する行動を管理するには始点の確認が重要です。開始から突入までの時間を全員が共有し、カウントダウン方式で行動していくのです。作戦開始前にカウントダウンベゼルをセットするのです。
 この時計の外見的な最大の特徴はリュウズとプッシュボタンが通常とは逆の9時側にある事です。過激な行動をする際にそれが腕の関節あたり自由な動きを阻害する可能性と、激しい衝撃で破損することを防ぐ為です。またクロノグラフのスタートストップボタンが8時の位置に来ることで、もっとも力の強い親指で簡単に確実に操作が可能です。彼らにとって作戦行動中にリセットボタンを押すことはありません。今ではジンのアイデンティティの一つといえる左リュウズはここからスタートしました。
 一見シンプルな時計ですが、そこにあるバックグランドとディテールは語り尽くしても尽くせないものがあります。分野は違えど一流のエキスパートがお互いに協力して完成したモデルなのです。ある意味ジンの新しい歴史が始まったモデルと言っても過言ではないはずです。

 いつに無く長文になってしまいました。申し訳ありませんEZM1についてはまだまだお伝えしたいことがあるのですが、それはまた次の機会にしたいと思います。この税関特殊部隊のZUZですが、現在でも存在しています。残念ながらジンの制式採用は終了しておりますが、今でもジンの時計を腕に装着したエキスパートが活躍しているのは間違い無いはずですし、そう信じたいですね。

 今回も最後までお付き合いいただいてありがとうございました。