史上わずかな本数しか生産されなかった
稀代の名品が蘇りました103.St.Ty.Hd
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/01.jpg)
ジンのオーナーであり社長のローター・シュミットは、今年の秋ジンを率いて30年を迎えます。この記念すべき年に、ジンの代名詞でもあり創業当初から続く「103」シリーズに、1970年代の希少なクロノグラフをオマージュした限定モデル「103.St.Ty.Hd」が誕生しました。
はじまりは1960年代から
![1960年代の103.A](assets/img/vol.64/02.jpg)
ジンの103は、創業初期の1960年代後半からそのフォルムを変えず、途切れることなく現在まで続くジンの不動のシリーズです。今ではスタンダードサイズですが、当時はビッグウォッチと言われた直径41mmのケースに、手巻式のValjoux 72やValjoux 726を搭載したパイロットクロノグラフからスタートしています。103初期のこれらのモデルはいわゆる『トリコンパックス/下三つ目』といわれる、30分積算計をダイヤルの3時位置に配したレイアウトが特徴で、1970年代までその生産は続きました。今回の新作103.St.Ty.Hdのデザインベースとなった「103 C」もこの時代に誕生したクロノグラフです。
その後、1973年にValjoux 7750とValjoux 7760が誕生したことにより、ジンの103シリーズも新しい時代を迎えます。現行モデルの「103.B.AUTO」や「103.B.SA.AUTO」と同じ、12時位置に30分積算計、6時位置に12時間計、9時位置にスモールセコンドを搭載した『縦三つ目』の配列を持ったクロノグラフです。
ヴィンテージ ジン コレクターによる103についての考察
ここで、ジンのヴィンテージモデルのコレクターで、新作のデザインベースとなった103 Cを所有するミケーレ・トリピをご紹介しましょう。彼はとりわけ103シリーズに特化したコレクションで有名です。
![103.KLASSIK](assets/img/vol.64/03.jpg)
1980年代から機械式時計に魅了されていたトリピとジンとの出会いは1998年、フランクフルトの旧社屋のファクトリーストアで購入したモデル「142(生産終了)」でした。その後、ジンの様々な時計をコレクションしていくトリピですが、2012年のバーゼルワールドで発表された「103.KLASSIK(完売)」に触発され、103シリーズのコレクションを始めました。彼によれば『シュミット氏が103.KLASSIK(完売)を市場に出すということは、このシリーズのクラシックなモデルの中に、何か素晴らしい製品があったに違いないと思ったのです』。情熱に火が点いた瞬間でした。それからはシュミットもうらやむような103のヴィンテージモデルを集め始めます。このストーリーは以下の動画でご覧いただけます。
ジンの103シリーズについては右に出るものはいないほどの知識で、自他ともに認めるヴィンテージ ジンコレクターのトリピによれば『103シリーズ初期、ほとんどのメーカーは自社で独自のデザインをしておらず、スイスに委託して作られるのが一般的でした。つまりケースや文字盤といったパーツは同じサプライヤーに頼っていたため、作られる時計はみな同じだったのです』。当時の時計業界ではごく当たり前のことでした。
103シリーズの新時代は1980年代にはじまりました。それまで各モデルの生産数は100本ほどだったにもかかわらず、ジンは103.Aと103.Bの生産数を本格的に増やしました。
『大きな転換がはじまったのは、特に1970年台終わりから1980年代初頭です。1988年以降のモデルが現在の103シリーズの前身と言えるでしょう』とトリピは言います。『ムーブメントがValjoux 72と726から自動巻キャリバーのValjoux 7750と手巻きキャリバーのValjoux 7760へと変わり、それに伴い時計の文字盤も変化しました。クラシックなトリコンパックス表示に代わって、6時、9時、12時位置に積算計の位置が変更されました。この時、このシリーズは特徴的なスタイルを確立しました。それが現在まで103シリーズのデザインの特徴になっています』
103シリーズの最初の誕生から50年以上、Sinnは103シリーズを独自のものにするために努力を重ね、確固たるスタイルを作り上げ、“ジンといえば103”とまで言われるようになりました。そうして今、満を持して103.St.Ty.Hdが誕生したのです。
継承されたデザインと現代的仕様
103.St.Ty.Hdのベースとなった103 Cはごく少数しか生産されず、現在確認が取れているものが世界で4本という、とても希少性の高いクロノグラフです。新作はこの103 Cをデザインベースとし、さらに様々な部分をモダナイズした世界1,000本の限定クロノグラフです。
![103 C Photo:Michele Tripi](assets/img/vol.64/04.jpg)
Photo:Michele Tripi
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/05.jpg)
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/06.jpg)
トリコンパックスのダイヤルレイアウト
オリジナルモデルに忠実に、103.St.Ty.Hdでは日付表示のないトリコンパックスのシンメトリーなバランスはそのままに、3時位置に30分積算計、6時に12時間計、9時位置にスモールセコンドを備えた、バランスの美学が息づく103の初期モデルの特徴的なインダイヤルの配置を採用しています。
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/07.jpg)
オリジナルに忠実なダイヤルデザイン
マットブラックをベースとしたライトイエローのインカウンター、ダークレッドのクロノグラフ秒針と分針、最初の10分が計測しやすいように赤と黒でデザインされた3時位置の30分積算計、ベゼルの内側に配置した時速60kmから600kmまでの速度を計測可能なタキメータースケールはオリジナルモデルを忠実に再現しています。さらにオリジナルと同様の山型のファセットを持ったアプライドインデックスと針により、このモデルは高い気品を放ちます。
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/08.jpg)
手巻式ムーブメント
Valjoux 726を搭載した103 C同様に、この新作には手巻式ムーブメントを搭載しています。採用しているキャリバーはセリタ社製SW510 Mのトップグレードで、56時間のパワーリザーブを備えています。103シリーズで手巻式ムーブメントを公式に採用したのは約20年前が最後なので、そういった点からも貴重なモデルが誕生したといえます。手巻式の採用により、現行のアクリル風防搭載の自動巻モデルで15.9mmの厚みが、103.St.Ty.Hdでは14.8mmと若干薄型になっています。
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/09.jpg)
強化アクリル製風防
オリジナルモデルのクラシカルな外観を再現するため、新作には衝撃耐性のある強化アクリル製風防を採用しています。
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/10.jpg)
直径41mmのケースサイズ
このモデルのケース直径は、オリジナルモデルや現行のレギュラーモデルと同様の41mmです。クロノグラフでありながら腕にしたとき馴染みやすいのは、わずかながら抑えられたケースの厚みのせいかもしれません。
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/11.jpg)
暗所での視認性も確保
時針・分針とインデックスおよび回転ベゼルの12時位置のキーマークには夜光処理が施されていますので、暗所でもしっかりと視認性が確保されています。
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/12.jpg)
コントラストステッチを施したボアレザーベルト
この時計に付けられたボアレザーストラップには、ジンの本拠地のあるフランクフルトが属するヘッセン州に生息する野生のイノシシを使用しています。ドイツでは狩猟時期が決められており、年によって捕れる量が違うため時計に使用できるレザーも限られます。時計にはレッドステッチを施したグリーンのボアレザーベルトが付けられ、細かな飾り穴の付いたブラックボアレザーベルト1本が付属されます。やわらかく装着感の高いベルトです。
![付属のブラックレザー装着例](assets/img/vol.64/13.jpg)
装着例
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/14.jpg)
世界限定1,000本の証
歴史的にみて名高いシリーズにふさわしい103.St.Ty.Hdは、世界1,000本の限定です。ケースの裏面中央には『EINE von 1000(1,000本のうちの1本)』という文字が刻まれています。耐圧性能は20気圧。減圧耐性も備えています。
成功の秘訣
ジンの103の専門家ともいえる前出のミケール・トリピの103.St.Ty.Hdに対する評価はどうでしょうか。
『103.St.Ty.Hdは、間違いなく人気が出る素晴らしい時計です。比べてみるとオリジナルに近いことがわかります。文字盤と針は103 Cと同じで、日付表記もありません。ジンはクラシックなものを現代的にアレンジすることで、歴史的なスピリットを保持することに成功しています。これらはすべて、コレクターにとっては非常に興味深いことです』
ミケーレ・トリピによると、この103シリーズの成功の秘訣は、その歴史的なつながりにあるといえます。デザインと特徴的な機能において、最も深いルーツに忠実であり続けたのです。変更は現代の技術の名のもとに、時計の内部にのみ手を加えています。
『103シリーズの一貫性こそが、時計コレクターに感動を与えるのです』と彼は続けます。『私はジンというブランドをこのようなクラシックな時計から思い浮かべますが、実はそれは私だけではないと思っています。その点で、103.St.Ty.Hdは、完璧に完成された時計です』
![103.St.Ty.Hd](assets/img/vol.64/15.jpg)
『ジンの時計は一度集めはじめたら止められません』とミケーレ・トリピは言います。
常にコレクションの最前線にあり
何世代もの時計愛好家を楽しませてきた伝説的タイムピース103・・・・・
ここに誕生した新作は専門家やコレクターはもちろん
新たなジン ファンの心に火を点けるに違いありません。
『ジンの時計は一度集めはじめたら止められません』とミケーレ・トリピは言います。
常にコレクションの最前線にあり、何世代もの時計愛好家を楽しませてきた伝説的タイムピース103・・・・・。ここに誕生した新作は専門家やコレクターはもちろん新たなジン ファンの心に火を点けるに違いありません。
ミケーレ・トリピ
ミケーレ・トリピは1980年代から機械式腕時計に魅了されてきました。彼が初めて“ジン”を知ったのは1998年のモデル142でした。しかし、彼自身の特別なヴィンテージウォッチへの情熱に火をつけたのは、「103.KLASSIK」でした。2012年以来、彼は歴史的な時計の熱心なコレクターです。現在、彼は30本以上の希少な時計をコレクションしています。そのうちのひとつが、世界に4本しか存在が確認されていない103 Cです。彼のウェブサイトでは、彼の貴重なコレクションを見ることができます。