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ジン温故知新vol.2

ジン温故知新

 今回で二回目になります『ジン温故知新』。今回はジンの歴史の中で絶対に外せないモデル、156.Bをご紹介いたします。前回お話したようにこのモデルが日本に上陸した最初のジンです。もちろん当時から他のモデルが存在していましたが、なぜ156.Bが選ばれたのか?実はそこにも理由があるのです。(抜群にカッコイイモデルだったのも理由の一つですが)

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 10年前までは日本でジンの輸入代理店は雑誌(今でもある有名な雑誌です)等を出版していた会社でした。そこの編集チームが1985年にドイツへ取材に行った際、ある日何気なく見ていた現地の新聞の小さな広告(本当に小さな)に目が留まりました。そこには針がたくさん付いたゴツイ時計の写真とブランドらしき名前と住所が書かれていました。 「なんだぁこの時計は!」との思いで、急遽そこに書かれていた住所にアポなしで突撃しました。そしてそこで会ったのがジンの創業者のヘルムート・ジン氏で新聞に出ていたモデルが156.Bだったのです。当時は今のように多くのジンを扱うというよりは、この156.Bだけを日本で紹介し販売したいと思ったのです。次の年に日本に初上陸してから雑誌や代理店が運営していた直営店の店頭に並ぶようになり、こだわりのモノ好きの方々を中心に少しずつ(本当に少しずつ)知られるようになったのです。「名前は聞いた事はあるが、現物を見た事があまり無くお店で聞いても入荷日の分からない幻の時計」として当時は話題になったものです。インターネットがまだ一般的ではない時代のエピソードです。

 156.Bは1960年代に西ドイツ連邦空軍が制式採用していたクロノグラフモデル155の後継モデルとして開発されました。外径43ミリのケースに名機の誉れ高いムーブメント、レマニア5100を搭載し、全ての仕様が実用の理論によって設計、開発されています。大型のアルミ製両方向回転ベゼルは単に視認性をあげるためだけではなく、グローブをつけた状態でも容易にかつ確実に操作が行えます。わずかに湾曲した強化アクリル製風防はどのような環境下でも可能なメンテナンスを考慮しています。使用によってついた傷はポリッシュする事で比較的容易に取り除くことが出来ます。また、強い衝撃を受けても風防が散乱する事が無くダイヤルや針などへの二次的被害を防いでいます。インデックスは視認性の高いアラビア数字で、クロノグラフに連動した各積算計に赤いペイントが施されています。

ジン温故知新 ジン温故知新

 飛行機の形をした60分積算計を備えていることがこのムーブメントの最大の特徴です。作戦行動において経過時間が容易に視認出来る事は重要な事です。また、12時の位置に24時間表示を備えているのも特徴の一つです。 ウラ蓋は155で開発された当時としは画期的な構造のウラ蓋を踏襲しています。防水性を高めるためにムーブメントを収めたミドルケースをラグのついた外側にケースに収めて4つのビスでそれを止めています。因ってムーブメントを出す為には風防側からアクセスしていきます。とても興味深い構造ですが、ミドルケースと外側にケースに水分やほこりが溜まることで稀に錆が発生したりしました。そのため後期モデルでは今では一般的なスクリューバックのウラ蓋に変更されたのですが、当時のジンファンには予想外に不評で「ビス止めの156.Bはまだありますか?」との問い合わせを多く受けたのを良く憶えています。ウラ蓋を指定してお買い上げ頂くブランドなんてそんなに多くはないのではないでしょうか?

ジン温故知新
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 全ての仕様はミルスペック(軍規格)に従い設計、製造、検査されておりそれを端的に表現するためダイヤルにMILITARYとプリントされています。(ドイツの時計なのになぜ英語表記?とのご質問も多くありました) 写真にもありますようにこのモデルをベースにした様々な限定モデルが発表されたのも特徴の一つです。モード寄りのホワイトダイヤル、赤、黒、黄色はドイツ国旗を連想させるモデル(本当ですよ)など。良く聞かれた質問の一つに「156.BのBはなんですか?」がありあました。当初はブラックダイヤルのBかとも思ったのですが、ドイツでは1番2番3番をA、B、Cと表すことがあり155を1番とした場合156は2番なのでBとしている説と西ドイツ連邦軍を意味するBundeswehrのBから来ている説が有力です。

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 今、あらためてこのモデルに向き合って思う事はどんなに月日が経っても本物は色あせない。と言う事ですね。個人的には博物館に並んでも良い時計だと思っています。生産が継続されていたら今でも間違いなくベストセラーのはずです。残念ながら2000年前半に使用していたレマニア5100の生産終了に伴ってこの156.Bもその使命を終える事になりました。

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 それから数年後のジン社創立50周年記念の年となる2011年にレマニア5100と同じ仕様の自社開発ムーブメントSZ01を搭載したEZM10を発表しました。実はその数年後にこのSZ01を用いた156の復刻モデルを日本限定として考えたのですが、「レマニアを積んでいなければ156では無い」との強いご意見に挫折した事を良く憶えています。しかしながら、もう一度とトライしても良い時期になったかとも強く感じています。また流行りのNATOベルトが最高に合う時計は156しかないとも思っています。間違いないです。

 機会がありましたら皆様のご意見をぜひお聞かせ下さい。今回はちょっと長くなってしまいました。お付き合いありがとうございました。