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ジン温故知新第4回

 時計業界の最大のイベントとも言える『バーゼルワールド』。本来なら今年は4月30日から開催の予定でした。3月上旬までは予定通りの開催に期待していましたが、残念な結果になった事は皆様もご承知の事かと思います。
 ジンが初めてバーゼルに出展スタンドを構えたのは確か1998年かと記憶しております。ホール1の入口直ぐの階段を上がったところにテーブルを一つ置いて、5人も入れば一杯の小さなスペースでした。ここに日本から時計店の皆さんが連日訪問されて大いに盛り上がった事を鮮明に記憶しています。以来、毎年バーゼルで魅力的な新作を発表してきました。今年はそれが出来ませんが、新作は予定通りに発表されました。その中で一押しのモデルが新しいダイバーズモデル『U50』です。定番のダイバーズモデル、U1のデザインとクオリティをそのままにサイズダウンしたモデルです(実際にダイビングで使用する際は大型より小型の時計の方が使いやすいとの話を伺ったことがあります)。
 と言う事で今回はジンのダイバーズモデルのルーツとも言っても過言ではない、モデル8820をご紹介いたします。

8820
写真左:モデル「8820」、右:「U-BOAT」

 日本で発売したのは1980年代の後半で8820というモデル名ではなく『ジンU-BOAT』として発売されました。U-BOATと言えばほとんどの方が第二次世界大戦で連合国軍を震え上がらせ、多くの映画の題材にもなったその当時の潜水艦をイメージすると思いますが、U-BOATとはドイツ海軍が保有する潜水艦の総称で現在でも使用されています(ご存知のように現行のUシリーズのケースは現在の潜水艦と同じ鋼材Uボート・スチール製です)。
 実はダイヤルにU-BOATと入れたのは日本からの要望でした。ドイツブランドのダイバーズウオッチだからU-BOAT。このシンプルな発想は大いに効果がありました。

 では時計を見ていきたいと思います。先ずはモデルの8820から。

8820

 ケース素材はチタンです(恐ろしく軽いです)。直径39ミリ、厚さ13ミリで当時としてはメンズサイズの時計でしたが、今となっては小型と言えるサイズです。

8820

 ラグと一体型のクッションケースデザインで、絶妙なバランスで逆回転防止ベゼルが配置され時計全体の一体感を強調しています。側面から見るとベゼルの操作性を考慮したデザインが見て取れます。これまで多くのジンの製品に触れてきましたが、デザイン性と機能性を兼ね備えたモデルはこの8820がダントツでNo.1だと思っております(あくまでも個人的な感想ですが)。

 ラグと一体型のクッションケースデザインで、絶妙なバランスで逆回転防止ベゼルが配置され時計全体の一体感を強調しています。側面から見るとベゼルの操作性を考慮したデザインが見て取れます。

8820
これまで多くのジンの製品に触れてきましたが、デザイン性と機能性を兼ね備えたモデルはこの8820がダントツでNo.1だと思っております(あくまでも個人的な感想ですが)。

8820

 インデックスはダイバーモデルらしい丸、四角、三角のコンビネーションで分針は矢尻タイプです。ダイビングの際は分単位での経過時間の認識が重要だからです。この分針は30年以上後に開発されたモデルT1に受け継がれました。内側のベゼルリングには時間表示がプリントされ視認性を確保するためダイヤルに向かって斜めに配置されています。この事で立体感をより増すことになりました。

 使用しているムーブメントはETA2892-2を搭載し、スケルトンバックによりムーブメントの動きを楽しむ事が出来ます。ウラスケで20気圧防水と言うのも当時としては珍しいのではないでしょうか?

8820

 ねじ込みリューズは手に干渉する事を考慮して4時位置に配置されています。ダイバーズウオッチの定石ですね。キャタピラースタイルのベルトもチタン製です。こちらも違和感無くケースにフィットしており一体感を際立てています。クラスプにはスプリングで可動する機能を備えており厚みのある服(例えばウエットスーツ)の上からも違和感無く腕に付けることが出来ます。

 次にU-BOATを。

8820
8820

8820と比べて違うところがいくつかあります。勿論、ダイヤルにプリントされたU-BOATのロゴもその一つですが。

8820
8820

 このモデルの最大の特徴はその風防にあります。8820ではミネラルガラスを使用していますが、このモデルではアクリルに変更されています。それはなぜか?実は風防に潜水深度を読み取る機能が加工されているからです。風防の立ち上がり位置とベゼルの間が平面になっており、その3時位置に小さな四角い穴が開いています。そして平面部分の内側には赤く塗られたプレートが埋め込まれています。これが深度計です。 水中に入ると水圧でこのプレートと風防の間に残っていた空気が穴から外に押し出され、代わりに水分が穴から隙間の中に入ってきます。その水分がレンズの役割をしてプレートの赤い色を見やすくします。深く潜れば潜るほど水圧の力で水分が押され、プレートの上を移動します。その水分の内側にあるインナーベゼルの数字が今潜ってる深度になります(同じような機能を備えた時計が国産メーカーにあったと記憶してます)。防水性能はアクリルガラスを考慮して15気圧です。因って150メートまで測れるようになっています。

 残念ながらその正確性はどの程度かを図る術を持っていませんが、発売当時に本栖湖でこの時計を腕に素潜りをした経験があります。その時は水深3メートまでは確認出来ました。信憑性も大切ですが、アナログでこのような機能を備えている事に魅力を感じませんか?今、復刻しても面白いかと、ちょっと思っています。このアクリル風防のためかノーマルの8820と比べると少し小型に見えます。
U-BOATのロゴは最初赤で、その後にロゴのサイズを大きくして黄色に変えたモデルも発売されました。

 いかがでしたか?8820は?デザインと機能性は今あらためて見ても色あせず、むしろ新鮮に感じる部分が多くありました。これは他のジンのモデルにも相通じる事だと思います。さて次はどのモデルをご紹介しましょうか?

 ちなみに個人的にお勧めのUボート映画は1981年に西ドイツで製作された『U・BOAT』(原題Das・Boot)。これに尽きます。予想外のストーリーもそうですが、圧巻は狭い船内を駆け回るカメラワークが秀悦です。ジン8820と一緒で今見ても全く色あせていません。絶対にお勧めです。男の映画です。ドイツネタの映画では『ミュンヘン』も最高です。GSG9を編成するきっかけの事件が題材。あれ?これもジンですね。
 では次回もお楽しみにして下さい。最後までありがとうございました。