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ジン・テクノロジーを徹底解剖#01Arドライテクノロジーとテギメント

ジンの時計作りの哲学は視認性、機能性を最重要視し 身に着ける人が生涯信頼できる 極限状態でも最高の精度を発揮する時計を作ることです。

さらに1994年に工学士であるローター・シュミットがオーナーになって以来 それまで時計業界にはなかった数々のテクノロジーが誕生し 各モデルの用途に合わせてそれらを搭載しています。

すでにジンを良く知る方にとっては周知のことかもしれませんが ここではより詳細にジン・テクノロジーをご紹介いたします。 連載の第一回目はArドライテクノロジーとテギメントです。

Arドライテクノロジー

 この技術の目的は、機械式時計のムーブメントバーツに使用されているオイルの劣化を防ぎ、時計の精度を安定させることです。オイルの劣化は時計内部に含まれている湿気や、時間の経過とともに時計内に拡散する湿気によって引き起こされます。水は常に気体の状態で大気中に存在しており、気体として時計ケースの機密構造をかいくぐります。気温の変化によりこれが微細な結露を引き起こし、水分が液体の状態で内部に溜まるのです。ジンのエンジニアは、以下の3つの要素によるArドライテクノロジーを開発し、この問題を解決しました。

1. ドライカプセル

最も重要な要素のドライカプセルです。内部に充填された特殊乾燥材はケース内部の湿気を吸収し、吸収した水分を長時間にわたり閉じ込めます。
ねじ式になったドライカプセルは通常は時計ケースのラグの部分に取り付けられています。
現行モデルの中でU2とU212は、ドライカプセルがダイヤルの6時位置に取り付けられています。ねじの部分が見えないのでわかりにくいですが、6時のインデックス下の小窓がそれです。
ドライカプセルを取り付けたケースの断面です。ドライカプセルはチタン製です。
白に近い水色から濃い青色まで、結合した水分が増加するにつれて乾燥剤の色が変化します。この色の変化を確認するため、ドライカプセルはサファイアクリスタルを使った小窓になっています。
濃いブルーになったらドライカプセルが飽和状態である目安で、交換の時期となります。濃いブルーの状態のままでも乾燥剤が結合した水分が外に出ることはなく、時計に悪影響を及ぼすことはありません。

2. プロテクトガス

 潤滑オイルの劣化が引き起こす放電腐食を防ぐため、時計のケース内に希ガスと呼ばれる安定したプロテクトガスを充墳することにより、静電気や不安定ガスを含む空気を可能な限り排除し放電腐食を防ぎます。

この機器のチェンバーに時計のヘッドをセットします。時計はあらかじめドライカプセルを外しておき、その穴からまずは中の空気を吸い出します(U2、U212はリューズ部分を外しておきます)。時計内部が完全に真空になったらプロテクトガスを充填します。これで、時計内部には水分を含む空気はなくなり、ほぼ無水の状態になったと言えます。

3. EDRパッキン

 時計ケースに気体が侵入し、大気中の水分がケース内部に留まるのを最小限に抑えるため、Arドライテクノロジー搭載の時計にはEDR(超拡散削減)パッキンを使用しています。ニトリルゴム(NBR)を使用した従来のケース用パッキンと比べ、ケース内への水分浸透を最大で25%削減することができます。

ジンではViton製のEDRパッキンを採用しています。
通常の時計に使用しているNBRパッキン
ドライカプセルにもEDRパッキンを採用しています。
Arドライテクノロジー搭載のモデルは、時計ケースはもちろんリューズやプッシャーに使用するすべてのパッキンがEDRです。

 Arドライテクノロジーはオイル劣化の問題を解決するだけでなく、急激な気温の変化による風防の曇りも防止され、どのような環境でも時計の読み取りを可能にします。Arドライテクノロジーを搭載した時計は3年間の保証付きです。

テギメント・テクノロジー

 この技術は窒素を使用した浸炭加工を時計のケースに施すことにより、鋼材の表面に炭素分子を拡散・浸透させ、焼入れして硬化させます。2003年に初めてモデル756に採用し、国際時計宝飾見本市のバーゼルワールドで発表しました。当初はステンレススチールのみに採用していましたが、2005年からはドイツの潜水艦の鋼材Uボート・スチールにも採用し、2011年に発表したEZM10からはチタンにも加工が可能になりました。
 ジンではこのテギメント加工を施しているステンレススチール製ケースには、腐食、錆、酸に強く、堅牢性が高いと言われる904Lを採用しています。素材の表面をセラミックスと同じ1200ビッカーズ以上の硬度にして時計に傷がつくのを防ぎます。今回のメルマガでは、ケースへのデモンストレーションビデオをご覧いただきます。

通常のステンレススチール製ケース。ステンレススチールの工具で簡単に傷が付いてしまいます。

テギメント加工を施したケース。傷が付いているように見えるのは、硬度約200HVのステンレススチール製工具の方が削れた削り屑です。

 テギメント・テクノロジーはどこから思いついたのでしょうか。実は工学士であるジンのオーナー、ローター・シュミットが、食品の缶詰を作る工程から発想を得たのだそうです。缶に傷が付いていると食品がそこから腐食してしまうので、耐傷性を高めるため食品の製缶時にも焼入れという技術が採用されているのだそうです。工学士ならではの思いつきです。

2回目以降はハイドロや回転ベゼルの特殊結合方式、ジン特殊オイルなど、 不定期の連載でご紹介してまいります。

ジンの正規店では技術者が実験を交えながらこのジン・テクノロジーをご紹介する テクニカルセミナーを開催する機会がございます。 コロナ感染予防対策について十分に配慮してまいりますので、 お近くの正規店での開催の際には是非、足をお運びください。

公式サイト内ジン・テクノロジーの解説ページはこちら

以下のページでは、それぞれのテクノロジーを搭載したモデルの一覧がご覧いただけます。
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