Mail magazine special contents vol.55

Unique scratch dialオンリーワンの魅力
世界で同じものが存在しないスクラッチダイヤル

U50

 ジンのコレクションを一堂に並べると、以前はブラックダイヤルばかりでしたが、今ではブルーやグリーンといったカラーダイヤルもあれば、特別な装飾のギョーシェダイヤルやダマスカス模様のダイヤルなども増えてきました。そんな中で、近年、ジンで人気なのが“スクラッチダイヤル”です。その名の通りダイヤルにスクラッチ加工を施しているもので、その加工は職人が1点1点手作業により行うため、世界でたったひとつのダイヤルが出来上がります。それを備えた時計は世界で1本しかない“オンリーワン”の時計ということになります。

EZM3.F.V

 日本で最初にスクラッチダイヤルのモデルが発売されたのは2021年のことです。日本限定100本で製作された「EZM3.F.V」です。ブラックダイヤルを備えたミッションタイマーEZM3.Fをベースとしたこのモデルは、全体のヴィンテージルックを高めるために、このスクラッチ加工のダイヤルを採用しました。ダイヤルにスクラッチ加工を施すことでソフトな印象が加わり、赤い文字やナチュラルなブラウンレザーストラップと絶妙なバランスでヴィンテージ感を作り出しています。このモデルにおいてスクラッチダイヤルは“エイジング”という印象を作り出すことに一役買っています。
 80,000A/mという高い耐磁性能をはじめ、お馴染みのArドライテクノロジージン特殊オイル、20気圧の防水性能を備えた日本限定100本の耐久性の高いミッションタイマーです。

 現行モデルでは以下の3モデルがスクラッチダイヤルを採用しています。ダイバーズウォッチやパイロットウォッチというカテゴリーの違いもさることながら、それぞれにまったく異なる印象です。

U50.DS
U50.DS
Uボート・スチール製ケース
500m防水、直径41mm
世界限定1,000本
T50.GOLDBRONZE
T50.GOLDBRONZE
ゴールドブロンズ125製ケース
500m防水、直径41mm
世界限定300本
358.SA.FLIEGER.DS
358.SA.FLIEGER.DS
ステンレススチール製ケース
10気圧防水、直径42mm
ドーム型サファイアクリスタル

 これらスクラッチダイヤルの製作工程は、まず真鍮のダイヤルにスプレーでベースカラーを着色します。その後、ブラシなどの金属工具を使用してスクラッチ加工を施し、透明なマットラッカーを塗装。最後にインデックスやロゴマーク、その他の文字のブリントを行います。スクラッチ後のラッカー処理により、不規則なパターンを持つスクラッチ柄ながらインデックスのプリントが際立ち高い視認性が確保できるのです。手作業により加工されたダイヤルに同じものは存在しません。

ダイヤル

 ところで、いくつかのスクラッチ加工のモデル名に付いている『DS』の文字ですが、これは「装飾的研磨」を意味するドイツ語の「Dekor Schliff」の頭文字を取っています。こういった部分にドイツ語を使用するのは、ジンのこだわりのひとつです。

U50.DS傷だらけのダイヤルと傷が付かないボディーのダイバーズウォッチ

U50.DS

 ダイヤルは傷だらけなのに回転ベゼルも時計ケースもブレスレットも、ジンのテギメント加工により傷がつかない仕様になっているところがU50.DSのユニークなところです。世界限定1,000本で製作されたこの時計の裏蓋にはシリアル番号が刻まれています。このモデルの針とインデックスは太いキャンドル型のユニークなフォルムで、夜光処理の面積も広く暗所での時間の読み取りが容易です。

U50.DS

 全体的にメタル感の高いブレスレット仕様以外にも、グレーのシリコンベルトに変更することで異なる印象が生まれます。このモデルに対応しているシリコンベルトは、ブラック、ホワイト、レッドがあります。

U50.DS

 直径41mmのケースにはUボート・スチールを採用。この素材は、ドイツの鉄鋼・工業製品メーカーのティッセンクルップが、現在世界で最も先進的な非原子力潜水艦であるドイツ海軍U212Aクラスの外殻に使用している特殊鋼で、海水との長時間の接触に耐性があります。ケースの設計はリューズを4時位置に配置しているため、腕にリューズが当たりにくく、付け心地は快適です。

T50.GOLDBRONZE新素材ゴールドブロンズ125を採用した限定300本のダイバーズウォッチ

U50.DS

 スクラッチダイヤルはジンのデザインに対するチャレンジのひとつといえますが、ジンは金属工学の分野における幅広い専門知識を駆使し、時計ケースの素材にもチャレンジを続けています。高硬度の22Kイエローゴールドや前述の潜水艦の鋼鉄Uボート・スチール、ダマスカス模様の積層鋼材などといった時計の素材としてはこれまで使われてこなかった新素材を次々と導入してきました。このT50.GOLDBRONZEに採用している「ゴールドブロンズ125」も、ジンが4年の歳月をかけて開発した特許申請中の新素材です。銅と錫、鉛、亜鉛の四元素を主体とした一般的なブロンズ合金とは異なり、ジンが開発した「ゴールドブロンズ125」は、銅(Cu)と錫(Sn)に12.5%の金(Au)を混合したブロンズ合金です。一般的なブロンズ素材で添加物として出現する他のあらゆる金属を0.002%の検出限界値まで排除し、海水に対する耐食性と肌への適合性を高めた素材です。T50.GOLDBRONZEは、ケースとベゼルにこのゴールドブロンズ125を採用しスクラッチダイヤルを備えた世界300本の限定モデルで、日本への入荷はわずか1割以下です。

T50.GOLDBRONZE

 このモデルの時計ケースは金属加工に高い技術を有するSUG製です。肌馴染みの良い色味のゴールドブロンズ125製のケースと技巧を凝らしたスクラッチダイヤルが見事にマッチして、品のあるゴールドモデルが誕生しました。500mの防水性能は、船級・認証機関のDNVにより検査・認証されています。

T50.GOLDBRONZE

 手の甲に当たらないよう、このモデルのリューズはケースの4時位置に配しています。ケースと回転ベゼルはゴールドブロンズ125製ですが、裏蓋はアレルギーを起こしにくいと言われている高強度チタンを採用していますので、高い装着感が得られます。

T50.GOLDBRONZE

 回転ベゼルはビスを使ったジン独自の特殊結合方式で固定されているため、衝撃を受けても絶対に外れることがありません。さらにベゼルが意図せず回転してしまうことがないように、「押してから回す」というシンプルで効果的な誤回転防止構造を持っています。過酷な環境下での機能的信頼性を高め風防の曇りを防止するArドライテクノロジーのドライカプセルを、ケースの7時位置のラグの部分に搭載しています。

358.SA.FLIEGER.DSスクラッチダイヤルを備えた伝統的スタイルのクロノグラフ

358.SA.FLIEGER.DS

 ジンのクロノグラフの中で不動の人気を誇るのが伝統的な計器式クロノグラフのデザインを踏襲した356シリーズと358シリーズで、スクラッチダイヤルを備えた「358.SA.FLIEGER.DS」は、直径42mmのケースを採用した358シリーズのクロノグラフです。スクラッチ加工を施したニュアンスのあるグレートーンのダイヤルを備えたこのモデルは、ブランド創立40周年で製作された「356.JUB」を彷彿とさせます。

358.SA.FLIEGER.DS

 時計ケースは鈍い輝きを備えたサテン仕上げです。ダイヤルカラーと揃えたグレーのキャンバスレザーストラップ以外にも、5連のステンレススチール製ブレスレット仕様があります。3つのインダイヤルはスクラッチ加工を施したベースダイヤルより一段暗くなっているため、クロノグラフや秒針の判読性が高めです。

358.SA.FLIEGER.DS

 このモデルには、特別な工具を使用して厚さ5mmのソリッドガラスから削り出されたドーム型サファイアクリスタルを搭載しており、裏面もサファイアクリスタルを使用したシースルーバックとなっています。スクラッチ加工が視認性を損なっていないのは、インデックスのディテールを見れば一目瞭然です。ダイヤルの「Ar」のマークはArドライテクノロジーを備えている証です。

ダイヤルに傷をつけるなどということはジンならではのとてもユニークな発想です。

スルスルと動く自動巻の秒針の動きとともに手にしたスクラッチダイヤルのパターンをじっと見つめているとなにやら気持ちが落ち着いていくようです。他のモデルにはないそんな点がスクラッチダイヤルの魅力かもしれません。